オーシャンズ10〜母なる海へ〜 第2話


有明の月

 ピピピピピピピピピ…

「ん…」
 八月五日、朝四時。
 まだ薄暗い屋根裏部屋の布団の中で、俺は目を覚ました。
 前日に仕掛けておいた、『目覚まし二段構え戦法』の一段目で難なく起きることができた。
 聞きたくないかもしれないが、『目覚まし二段構え戦法』について説明しよう。
 まず、『一段目』。自分の近くに目覚ましを仕掛けておく。まあ、一般的な目覚ましの使い方だ。だが、ここで俺は 考えたのさ(NO・SA!)。「二度寝を防ぐにはどうすりゃいいか」ってな(TE・NA!)。そこで編み出したのが『二段目』 だ。手を動かすだけなら、目を開けることなく、手探りで目覚ましを止められる。だが、ここで二つ目の目覚ましを、 寝床から遠くに設置しておく。立ち上がって歩けば、確実に目が覚める、って寸法だ。
 こんな誰でも思いつきそうなことを長々と熱弁していたら、少しむなしくなってきたんだが、どうすりゃ いいだろうか?
 あと、この方法の成功率には個人差がある。要するに、二つの目覚ましの音をバックにむにゃむにゃと惰眠を貪って しまう可能性もなしとは言えないって訳だ。だから失敗してもクレームはつけないでほしい。
 まあ、今日のところは起きられたからよしとしよう。
 階下に下り、鞄に持ち物を入れて着替えも済ませ、さあ、出発だ。

 玄関先に停めてあった黒いステンレス製の自転車に跨り、眼鏡を取りにいったん戻ってから、気を取り直しDKを 目指す。
 何度も書いている気がするが、DKというのは、ある先輩が名づけた「団地の公園」の略称だ。バナナ百本で残機が増える どこかのネクタイをした霊長類とは一切関係がない。
 薄く靄のかかった涼しい早朝の町には、車はおろか、人っ子ひとり歩いていない。小鳥すら鳴いていない。
 風を切りながら自転車を飛ばして、約1キロ離れたDKに到着した。すでにパンテーン、小人、阪神、ケミカル先輩、 1+1=7先輩、μg先輩、180°先輩が来ていた。俺は八着か。これまでは一着か二着が多かったんだが、やっぱり途中で 戻ったからだろうか。

 ふぅ、と息を吐き出した俺に、小人がニヤニヤしながら言う。こいつはいつもやに下がっているというか、 ニヤニヤしている。持病だろうか。 「遅せーぞ」
「途中眼鏡取りに戻ったんだよ、それに遅刻じゃないだろ。今何分ですか?」先輩たちの方を向いて言った。
「四時…二十七分」携帯を確認した先輩が言った。
「ほら」
「あ、月が出てる」
 先輩の言葉に、俺は空を仰いだ。北西空高くに、青白い下弦の月が、存在感を主張することなくひっそりと 浮かんでいた。 




有明の月
有明の月というものを、はじめて見たように思う。



 アスレチックの奥にある築山に登って、朝の空を眺めた。
 西日本で猛威を振るった台風5号が昨日ようやく北海道上空を過ぎ去り、心配されていた雨も降らず、 ひとまず安心した。ゆっくりと昇ってきた朝日が東の 地平線近くを橙色に染め、そこからだんだんと青系の、いわゆる空色にグラデーションしていくさまは、なかなか 詩情をそそる(詩は苦手だが)というか、趣を感じた。
 これは一枚撮りたいと思い、築山の上で旧式のデジカメを構えたわけだが、




朝の空
団地邪魔。



 家を出た時に撮っておいたほうがよかったなと思いつつ、築山を下りてしばらく雑談していると、ヒルハが来て、 もうしばらくしてから沼が来た。他にも一年生や二年生を呼んでおいたのだが、行けなくなったらしい。やはりまだ 早かったか。沼は別として。去年の参加メンバーのうちの二人も、それぞれ塾主催の高校見学会やらの用事で 行けなくなったと言われた。受験生は大変だな。あれ?受験…おいしいの?
 メンバーが揃ったところで、出発といきたいところだが、その前に近くのコンビニで腹ごしらえをすることにした。 腹が減っては戦ができぬと昔から言うから。とりあえず古人に盲従。
 おのおの飲み物や食べ物を買い(俺はおにぎりを二つ買った)、今度こそ出発だ。




いざ出発
さあ、母なる海へ。





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